第49回 動物生命科学研究センター学術講演会

演 題:「始原生殖細胞(生殖幹細胞)の研究とそれを支えるもの 」
演 者:桑名 貴 先生(滋賀医科大学・動物生命科学研究センター 客員教授)
日 時:令和2年 1月22日(水)16:00〜
場 所:動物生命科学研究センター 5階 セミナー室

〈講演要旨〉

個体発生の初期には「将来の配偶子の前駆細胞となる始原生殖細胞(primordial germ cells; PGCs)」が出現してくる。興味深いことに、始原生殖細胞(昆虫では極細胞; polar cellsと呼ばれる)に関する研究報告がある有性生殖を行う生物種の全てで、将来の生殖巣が分化してくる部位とは異なる部域で始原生殖細胞は分化してくる。その結果、配偶子の幹細胞(始原生殖細胞)は形成されつつある生殖巣へと個体発生の間に移動しなければならない。体細胞系列とは全く異なる発生運命をたどる生殖系列の幹細胞(始原生殖細胞)の分化決定は、他の体細胞系列の細胞分化に影響を与えない場所で行われなければならないとしても、結果的には形成されつつある将来の生殖巣部域(標的器官)から離れた位置に始原生殖細胞は出現することになってしまう。なぜ他の幾つかの幹細胞と同様に、この細胞は発生過程にある標的器官から離れた場所でしか分化し得ないのか、分化決定をうけた始原生殖細胞はどんなメカニズムで将来の生殖巣部域に移動できるのか。このように生殖系列の幹細胞としての始原生殖細胞には幾つもの疑問点が未だに存在するものの、幹細胞としての始原生殖細胞を活用することには大きな利点がある点は疑問の余地は無い。受精卵(万能細胞)を創出することが可能な配偶子(精子、卵)の祖細胞となる始原生殖細胞は種の保存や個体増殖、遺伝子改変動物の創出に有用な材料となる。また近年は、体細胞から始原生殖細胞、精子や成熟卵を創出して子孫個体を得る試みもマウスを用いて報告され始めている。一方、実験動物を扱う際には常に「研究目的に最適な動物種の選択」を行う必要があるものの、どのような実験動物を用いても要求する条件を完全に満たすことは不可能であるために、選定した動物種の特性を考慮して実験計画を組み立てる必要がある。多くの場合には実験対象の選択はほぼ二極化する傾向がある。つまり、線虫を含むシンプルと言われる動物種とヒトに近い哺乳類(マウス、ブタ、霊長類など。時にはヒト)が好まれる傾向がある。ここでは始原生殖細胞に関する実験的手法を用いた研究を、あえて鳥類でのものを中心に紹介していくと共に、開発した実験手法を用いた応用研究や共同研究体制の構築可能性や、研究に必須な環境作りとサポート体制に関する国内外での問題点をご紹介する。

*本講演は大学院の医学総合研究特論の一環として認定されています。


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