第54回 動物生命科学研究センター  学術講演会

日 時令和7年2月18日(火)15:00~
場 所動物生命科学研究センター 5階 セミナー室
演 題「カニクイザルMHC遺伝子群の遺伝学的特徴と疾患 ・移植研究への応用」
講 師椎名 隆 先生
(東海大学 医学科基礎医学系分子生命科学領域 教授)

〈 演題要旨 〉

 主要組織適合性複合体(MHC)分子は細胞膜上に発現する糖タンパク質である。その主な機能は、MHC分子に結合した抗原ペプチドをリンパ球の一種であるT細胞に提示し、免疫応答の活性化を制御することである。MHC分子をコードするMHC遺伝子は複数の遺伝子座位から構成されており、多くの生物種で高度な遺伝的多様性が観察されている。例えばヒトの場合、主要なMHC遺伝子座位において40,000種類以上の対立遺伝子(アレル)がこれまでに同定されており、日本人に限った場合、自分と一致するMHCアレルを持つ人は数百人から数十万人に一人の割合とされている。この高度な遺伝的多様性は、病原体 vs 宿主の軍拡競争において様々な病原体への適応度を高めることを可能とするが、MHC分子と病的な抗原ペプチドとの結合能の差異から、“感染症”・“アレルギー”・“自己免疫疾患”などの感受性/抵抗性をもたらすことになる。さらに、移植分野ではドナーとレシピエント間のMHC型不適合により、拒絶反応が引き起こされるため、両者のMHC型を極力一致させることは拒絶反応回避のために重要な要因となる。カニクイザル(Macaca fascicularis)は、ヒトとの間に形態、生理、疾患などの類似性または近似性が観察されるため、ヒトと最も近縁な実験動物の一種として、薬剤開発や移植研究などの種々の非臨床研究に使用されている。我々は、カニクイザルのMHC(Mafa)遺伝子群のゲノム解析や遺伝子多型解析を介して、1) Mafa遺伝子群はヒトと類似した遺伝子構成を有すること、2)フィリピン産は他産地よりも特定のMafa型を持つサル個体を同定するのに費用対効果に優れていることを見出した。その後、次世代シーケンサーを用いたMHC-DNAタイピング法を開発し、200種類以上のMafaアレルの塩基配列を同定し、フィリピン産におけるMafa遺伝子多型の全貌を把握した。さらには、約5,400頭のMHC-DNAタイピングを実施し、38頭のMafa遺伝子群のホモ接合体や多数のヘテロ接合体などMafa多型に基づく移植研究に有用な個体(MHC統御ザル)を自由自在に検出することが可能となった。このようなカニクイザルのMHC遺伝子研究に基づいて、MHCホモ接合体から樹立したiPS細胞をドナーとしたサル個体への移植研究や子宮移植研究が精力的に進められてきた。そして、現在、それら非臨床研究の成果は、ヒトの臨床研究や実用化に確実に受け継がれている。

本講演では、カニクイザルのMHC遺伝子群の遺伝学的特徴をマウスやヒトを含めて概説した後に、MHCをキーワードとした非臨床試験への取り組みについて紹介。

*本講演は大学院の医学総合研究特論の一環として認定されています。 


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