第55回 動物生命科学研究センター  学術講演会

日 時令和7年3月13日(木)17:00〜
場 所総合研究棟6階 サイエンスカフェ
演 題「Chimpanzee Naïve PSCs as a Model to Understand Primate Naïve Pluripotency」 
講 師正木 英樹 先生
( 東京科学大学総合研究院 幹細胞治療研究室 特任准教授 )

〈 演題要旨 〉

 多能性幹細胞(PSC)は、着床前胚のエピブラストに類似した「ナイーブ型」と、着床後胚のエピブラストに類似した「プライム型」に大別される。ヒトナイーブ型PSC(NPSC)にはマウスNPSC(=マウスESC)と比べ、胚体外組織にも分化できる、naïve pluripotency regulatory networkの一部が異なる、といった差異が知られていた。このような差異が非ヒト霊長類にも保存されているのか、それともヒトNPSCが特殊な性質を持つのかを検証する目的で、我々はチンパンジーNPSCの樹立を試みた。チンパンジーNiPSCへの変換・維持培養に必要な因子を探索した結果、ヒトNPSCの維持条件に加えて、新たにActivin、IL6、PRC2阻害剤を添加した条件(A6E)で効率的な樹立と安定的な維持が可能になることを見出した。A6E条件下で樹立されたチンパンジーNiPSCは、ヒトNPSCやヒト着床前エピブラストと類似した遺伝子発現プロファイルを示し、胚体外組織にも分化可能であったことから、ヒトNPSCに非常によく似た特徴を有すると言える。霊長類内でヒトに最も近縁なチンパンジーであってもnaïve pluripotencyの維持条件の至適化が必要だったことから、マカクやマーモセットといったより進化的距離のある霊長類のNPSC樹立にも至適化が必要になると予想される。他方、A6E培地でヒトナイーブ型PSCが維持できた上にfeeder-free培養も可能であったことから、A6EはヒトNPSCにとってもよりrefineされた培養条件だとも考えられる。
進化発生学的な関心の他に、非ヒト霊長類NPSCの重要性としてヒトNPSCの代替としての役割がある。マウスの再構成胚モデルが胎仔へと発生できたことから1)、ヒトの胚モデルにも同様に発生能があるか注目される一方で、生命倫理上の懸念をも招いている。今回我々が樹立したチンパンジーNiPSCからも胚盤胞様の胚モデルであるブラストイドが作製でき、ヒトブラストイド2)と非常に近い性質を有することが確認された3)。生命倫理上の懸念を避けつつ、ヒトに外挿可能な有用なデータを提供するリソースとしても、チンパンジーNiPSCは好適である。
チンパンジーNiPSCから得られた知見をベースに、非ヒト霊長類NPSC樹立の方法論や活用法について議論。


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