
日時 | 令和7年6月13日(金)17:00〜 |
場所 | 動物生命科学研究センター5階 セミナー室 |
演題 | 霊長類医科学研究における獣医学的管理とVPPの役割」 ― 教育・臨床をつなぐ実践的視点から ― |
講師 | 小野 文子 先生 (岡山理科大学 獣医学部 獣医保健看護学科 教授) |
〈 演題要旨 〉
霊長類はヒトに極めて近縁な存在であり、医科学研究において不可欠な疾患モデル動物である。特にカニクイザルは、感染症・神経疾患・再生医療・老化研究の分野で広く利用されており、その適正な管理と福祉の確保が研究の信頼性を支えている。しかしながら、日本の獣医学教育において霊長類を対象とした専門的教育プログラムは未整備であり、実験施設における臨床支援・行動評価・感染症管理を担う人材育成が十分に行われていないのが現状である。
私はこれまで、東京大学医科学研究所および筑波霊長類医科学研究センターにて、研究用霊長類の獣医学的管理と支援に携わってきた。また、カニクイザルを用いたプリオン病の感染実験に取り組み、国内唯一の本研究は2023年まで継続して実施してきた。現在は、大学において、獣医師と連携して活躍する獣医関連専門職(VPP:Veterinary Para-Professionals)の教育に携わり、愛玩動物看護師や実験動物技術者をはじめとする人材の育成に努めてる。
WOAH(旧OIE)は、VPPの制度化と教育基準の整備を各国に求めており、VSB(獣医法定機関)による認定、職域の明確化、継続教育の確保が国際的な潮流となっている。実験動物、特に霊長類の分野においては、獣医師とVPPが協働し、獣医学的管理、QOLの維持、バイオセーフティ、福祉の向上を図る体制の構築が不可欠である。たとえば、小動物臨床では動物の疼痛管理に関する意識と技術が著しく進展しており、これらを霊長類医科学研究に応用する意義は非常に大きいと考えられる。このように、医科学研究とヒト医療・獣医療のあいだで相互にフィードバックを可能とする体制の構築は、One Health/One Medicineの理念にも合致する。 本セミナーでは、霊長類医科学研究におけるVPPと獣医師の協働による実践的な獣医学的管理のあり方を提示し、Primate Medicineへの貢献と、教育・研究・臨床をつなぐ“架け橋”の構築について議論された。